「また間違えたら、どうしよう」
先週、規格違いの薬を出しかけて、鑑査で止まった。患者さんには届かなかったけれど、それ以来、薬を手に取るたびに手が止まる。このプレッシャーが続くなら、もう辞めたい。
ミスが怖いときは、自分の注意で防げることと職場の仕組みで防ぐことを分けて見ると、整理しやすくなります。公的な資料で見てみましょう。
30秒でわかる結論
- 全国の8割近くの薬局が参加する報告の仕組みで、2025年に集まった調剤のヒヤリ・ハット(ミスにつながりかけた出来事など)の報告は19,821件でした。
- その要因には、判断誤り・慣れや慢心のほか、繁忙であったも多く挙がっています(複数回答)。
- 医療安全では、事故を防ぐために、個人の責任を追及するよりも、原因を調べて防ぐ対策を立てることが大切とされています。薬局にも、手順書などの体制を整える決まりがあります。
- 辞める前に、今の職場の手順・鑑査・忙しい時間帯の人数を確かめると、職場を変えるべきかを判断しやすくなります。
ミスにつながりかけた出来事は、毎年たくさん報告されている
日本医療機能評価機構が全国の薬局から集めている「薬局ヒヤリ・ハット事例」の報告は、2025年に114,904件ありました。全国の8割近くの薬局、49,310施設が参加しています。
このうち8割ほどは、処方の内容を医師に問い合わせた事例などで、薬を用意したり渡したりするときの「調剤」の事例は19,821件でした。どちらも参加した薬局が報告した数で、全国で起きたミスの数そのものではありません。

調剤の事例の半分(50.1%)は、薬を渡す前に見つかっています。渡したあとに見つかった事例も、その9割(90.9%)は「影響なし」でした(計算値)。
冒頭のように、出しかけた薬が鑑査で止まったのも、確認の仕組みが働いた例です。
ミスは、どんな要因で起きているか
調剤の事例で報告された要因(複数回答)は、次のとおりです。
| 要因 | 件数(件) | 割合(計算値) |
|---|---|---|
| 判断誤り | 9,330 | 47.1% |
| 繁忙であった | 9,104 | 45.9% |
| 慣れ・慢心 | 8,454 | 42.7% |
| 焦り・慌て | 5,785 | 29.2% |
| 医薬品の名称が似ている | 3,638 | 18.4% |
| 薬局内のルールや管理の体制 | 3,537 | 17.8% |
※ 割合は、調剤の事例19,821件に占める割合です。1つの事例に複数の要因を挙げられるので、合計は100%になりません。
上位には「判断誤り」「慣れ・慢心」のような本人に関わる要因が並びますが、忙しさ(45.9%)のほか、薬の名前の似かたや薬局のルール・体制のように、本人の注意だけでは防ぎにくい要因も挙がっています。これらは報告された事例の要因で、ミスの原因をすべて表したものではありません。
原因を調べて、仕組みで防ぐ
厚生労働省の検討会議がまとめた「医療安全推進総合対策」(2002年・医療機関全体についての報告書)では、事故を防ぐためには、個人の責任を追及するよりも、原因を調べて防ぐ対策を立てることが大切だとしています。「人は誤りを犯す」ことを前提にした考え方です。同時に、一人ひとりが安全に気を配り、学び続けることも求めています。
全国の薬局のヒヤリ・ハットを集める仕組みも、報告を匿名にして、報告した人を罰するためには使わないという考え方で運営されています。これは報告の仕組みについての考え方で、職場でのミスの扱いを決めるものではありません。
薬局には、体制を整える決まりがある
- 医療安全の体制:薬局は、薬の安全な使い方のための責任者を置き、働く人から薬局(開設者)へ事故を報告する体制を整え、業務の手順書を作ってそれに沿って業務をする決まりです。
- 管理者の役割:薬局の管理者は、働く薬剤師などを監督し、薬局の業務に必要な注意を払う役割があります。必要なときは、薬局の開設者に意見を書面で伝える役割もあります。
- 薬剤師の人数:薬局を開くための基準として、前年の1日あたりの平均の処方箋の数(眼科・耳鼻咽喉科・歯科の処方箋は3分の2で数える)を40で割った人数以上の薬剤師を置く決まりがあります。これは最低限の基準で、忙しい1日の枚数で数えるものではありません。
辞める前に、確かめること
- 一人で抱えない:ヒヤッとしたことは、管理者に報告・相談しましょう。薬局には、働く人から薬局へ事故を報告する体制を整える決まりがあります。
- 職場の手順と鑑査:業務の手順書があるか、その中で鑑査の確かめ方がどうなっているかを確かめましょう。
- 忙しさ:処方箋の多い時間帯に、薬剤師が何人いて、鑑査を誰がしているかを書き出し、負担が大きいと感じたら管理者に相談しましょう。
- つらい扱いが続くとき:ミスを人前で強く責められるなど、つらい扱いが続くときは、職場の相談窓口や、無料の総合労働相談コーナーにも相談できます。

鑑査で止まったのは、確認の仕組みが働いたしるしでもあります 🌿
職場を変えるなら、面接で聞くこと
職場を変えると決めたら、業務の手順書や鑑査のしかた、忙しい時間帯の薬剤師の人数を、面接で聞いておくと比べやすくなります。
期間の定めのない雇用なら、辞めたいと伝えた日から2週間で雇用は終わります(就業規則の定めも確かめましょう)。
年収や転職の求人の数は、「薬剤師の年収は?」と「薬剤師の転職は厳しい?」にまとめました。
まとめ:今日やることは1つだけ
最近ヒヤッとした場面を1つ選び、そのときの忙しさと、確認の手順があったかをメモに書く。 原因が自分だけか、職場の仕組みにもあるかが見えてきます。
- 全国の8割近くの薬局が参加する報告の仕組みに集まった調剤のヒヤリ・ハットは、2025年に19,821件でした。
- 要因には、判断誤り・慣れや慢心のほか、繁忙であったも多く挙がっています。
- 医療安全では、原因を調べて仕組みで防ぐことが大切とされ、薬局にも体制を整える決まりがあります。
- 辞める前に、職場の手順・鑑査・忙しい時間帯の人数を確かめましょう。
※ 参考にした資料
- 公益財団法人日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 2025年年報」「事業案内」
- 厚生労働省 医療安全対策検討会議「医療安全推進総合対策」(2002年)
- 薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令
- 医薬品医療機器等法
- 労働施策総合推進法・民法

